Sensuousに生きよう。

何も考えてないように見える僕の頭の中は、日本酒が溢れ出るくらいにくだらないことで頭が一杯だ。

銀行員時代 支店研修編②

長期休暇を終えて支店に顔を出すと、職場の話題は彼女で持ちきりだった。「どうして来なくなっちゃったの?」「まだ数ヶ月しか経ってないのに。」「この程度でダメになるならこの先どうせやっていけない。」等々、みんなが口にする言葉はどれも彼女への思いやりに欠けるものだった。僕も人のことは言えない。確かに仕事は退屈そのものであったが、逆に楽すぎてストレスもほとんどなく、何がそこまで彼女を追い詰めたのかいくら考えても理解できなかった。理解できなかったが、口には出さなかった。

 

彼女が職場に来なくなってから何度も耳にした、僕の大嫌いな言葉がある。「昔はもっと酷かった。」今の大人の大半は自分の過去の経験を基準に物事を語りたがる。中でも頭の堅い銀行員の多くは今を基準に物事を捉えることができない。第三者的に過去を語るのはまだマシとして、最悪なのは「私の時は…」「俺の時は…」と自分の経験を引き合いに今の若手を批判する場合である。確かにその人らはひどい支店長、部長に当たり辛い想いをしたのかもしれない。しかし、そんなのは運が悪かったとしか言いようがない話で、その時の話をされても辛い過去を乗り越えた自分を美化したいだけにしか見えないのである。

 

過去に支店に来れなくなった新人を何人も見てきているからか、このような耳障りな会話があちこちで聞こえる日々は意外と短かった。今に思えば、新人が辞めるということは営業に追われる男性職員にすれば無関心、ゴシップ好きな女性職員にすれば退屈しのぎでしかなかったのかもしれない。他の企業の職場がどのような雰囲気かは分かりかねるが、銀行の職場はあまりにドライである。

 

 

少し話が逸れたが僕の支店研修後半を振り返る前に、ここであおぞら支店の構成を紹介しよう。おそらくこれは世間一般の支店にも当てはまるので、銀行に足を運んだ際には是非イメージしてもらいたい。以下、大きく3つに分けられる。

 

◯富裕層向け個人営業層

富裕層向けの資産運用、ローンのコンサルを行う。男性社会で常に空気はピリピリムード。新人がこのグループの人に関わることは滅多にないが、たまに挨拶に行くとあまりの静かさに緊張する。

 

◯個人営業層

中流階級向けの資産運用、ローンのコンサルを行う。女性社会であるが、営業職としての緊張感は上と変わらず。しかし、女性らしい面もあって仕事が落ち着く夕方頃にはみんなでお菓子をつまみながら雑談する時も見られる。総合職の新人はまずこのグループに配属となる。

 

◯一般顧客対応層

一般顧客の窓口対応および営業層への取次ぎを行う。女性社会。張り詰めた空気というよりは常に顧客対応に追われていて騒がしい。変な顧客が来店しクレーム対応することもしばしば。新人が銀行業務の基礎を学ぶ現場である。

 

次に、あおぞら支店のメンバーを紹介しよう。あまりにお世話になったので一人一人挙げたいところだが、ここでは僕の支店研修を語る上での大枠での紹介に止める。

 

支店長:「こんなに良い支店長は滅多にいない」とみんなが慕う人格者。直接関わる機会はそれほど多くはなかったが、その理由が自然に伝わるくらい良い人。

部長:支店長も過去に経験したお父さん的存在。飲み好きだが立場上気軽に飲みに誘えないのでどこか寂しげ。(怒られたことはないが)怒ると怖いらしい。

運用課長:バリキャリ、美人、乙女。普段ツンとしていて厳しいが、たまに見せる笑顔が素敵。運用課長に「ありがとう。」と言われたいが為に、彼女からお願いされる雑用はどんなことでも真っ先にこなした。

ローン課長:途中異動があって一人は変わり者、もう一人はヘビースモーカー。どちらもクセが強かった。

サービス課長:豪快、チャーミング。飲み会の席ではいつも中心。後半にかけてこの職場への愛着が湧いたのは、サービス課長がいたからこそ。相手と時代に合わせて話ができる人だった。

指導員:不思議な雰囲気を持つお母さん的存在。普段はほったらかしで、たまに呼ばれたかと思えば手厳しい言葉を投げてくる。態度には表さないが一番僕のことを気にかけてくれていた。

一つ上の先輩:傍若無人。好き嫌いがはっきり別れる人。うざいと思ったことは何回もあったけど一番お世話になった。僕は好き派です。

一般職同期4人:頼りがいのある同期。最初はどこか距離感もあったけど、次第に打ち解けた。今でもたまに飲みに行く仲。

お姉様方:何でも丁寧に指導してくれる優しく綺麗な先輩方。迷惑かけすぎて何も言えない。

マダムたち:我が子を見るように僕に接してくれた優しい方々。

 

紹介文を書いてみて思うが、僕の支店研修は人に恵まれていた。支店研修後半はこのような良い人たちばかりに囲まれて進んでいくが、不慣れな女性社会の中でこの人たちのマザーテレサのような優しさに甘え、僕の人格が少しずつ崩壊していく様子を次でお見せする。