Sensuousに生きよう。

何も考えてないように見える僕の頭の中は、日本酒が溢れ出るくらいにくだらないことで頭が一杯だ。

独立遊軍武蔵の会合

支店研修を終えて一人一人がばらばらになった後も、独立遊軍武蔵の五人は連絡を取り合い、GWや年末年始といった休暇の間には何度か会合を開いた。車で地方観光に行き旅先でひたすらお酒を飲むだけのたわいも無い会合であったが、五人が集まるだけで「頑張ろう。」と自分を思い返すことができた。最初五人で集まった時には誰が一番早く銀行を辞めてもおかしくない状況であったが、会を重ねるごとに一人また一人とまずは関西組の三人が銀行を離れていった。関西で三人が何やら面白いことを始めようとしていることは耳にしていたが、頻繁に顔を合わせることができなかった僕は遠目に眺めることしかできなかった。

 

 

ここでは武蔵のメンバーを簡単に紹介した後、僕らにまつわるエピソードをいくつか紹介する。法人営業部編の続きが気になるだろうが、先を物語る上で欠かせない内容なのでしばしお付き合い頂きたい。

 

関西組

健勇:じっとしていられない性格で常に何か新しいことをしようと考えているキレ者。アイデアを思いつきこれをやると決めたら一直線。男子校出身の体育会系で相当の負けず嫌い。独りよがりで自分の想い通りにならないと気が済まない部分があるが、根は優しく人付き合いに不器用なところがある。旅好き。

 

晢誠:知性はもちろんのこと特筆すべきはそのバランス感覚。常に冷静で的確。自由な家庭で育ったこともあり、自分の好きなように生きている。逆を言えば、自分の嫌なことは基本的にはせず、嫌いな人とも付き合わない。優しいように見えてドライな部分があり、本質的には他人に一番興味がない。おしゃれでガラ悪め。

 

篤彦:変わり者で人との距離の詰め方が不自然。なぜか新人研修時代に僕ら四人とだけ仲良くなった。実家が自営業で不自由無い生活を送ってきたからか、どこかわがままでだらしない部分はあるが、自分の考えは明確に持っており自立している。寂しがりで人に優しい。お金はあるのになぜかケチ。

 

関東組

将一郎:左手に女、右手に酒。裏社会も知るガラ悪めの男だが、五人の中では一番しっかり者で強い。その強さはおそらく高校時代甲子園出場に迫るほど野球に打ち込んだ経験から来ている。自己承認欲求が誰より強く、お金はその為の手段として必要と考えている。車が好きで運転が得意。

 

剣真(僕):中流階級育ちのモデルケースで五人の中では一番普通、と思っていたがどうやら一番の変人らしい。頭で考えていることと口が非連結的。幼少期を海外で過ごした経験を持ち、大学までは体育会系。我慢強く負けず嫌いな部分もあるが、自己表現が苦手。流行りが移ろいやすい。

 

こんな個性がバラバラな五人が銀行の新人研修で出会ったわけだが、最初は体育会出身の健勇と僕、チンピラまがいの哲誠と将一郎、一人煙たがられる篤彦という感じで互いに見えない距離感も存在した。しかし、何がきっかけと明確に言うことはできないが気づけば皆が意気投合していたのである。その時はまさかここまでの関係になるとは想像もしなかったが、今では銀行に就職したことの意義はこの四人に出会えたことであると胸を張って言うことができる。

 

武蔵で語り継がれる伝説のスピーチ

僕らには生涯忘れられないスピーチがある。それは2005年にスティーブ・ジョブズスタンフォード大学で卒業生に向けて行なったような、誰もが賞賛する立派な内容のものではない。「コイツ、何言ってんだ。」と誰もが度肝を抜かれたスピーチである。

 

僕らの新人研修の最後には、一人一人がクラス全員に向かって思いの丈を述べる場が与えられた。ワンピースのルフィのように「俺は頭取になる男だ!」と恥ずかしげも無く豪語する人やクラスの思い出を語り涙する人、配属後の不安を吐露しこれからも一緒に頑張っていこうと同期愛を訴える人など語られる内容は人によって様々である。通常このような全体スピーチの場ではその場にいる全員に伝わる内容を話すものだが、一人だけ内輪も内輪、僕ら五人にしかわからないことを話し、周りをきょとんとさせた人がいた。篤彦である。

 

彼が語った全文までは覚えていないが、簡潔に言うと「武蔵のメンバーで研修期間中に行った旅行が最高に楽しかった。お疲れっした。」以上である。あまりにメッセージ性がなく話に挙げられる残りの四人が顔を見合わせて赤面した程であったが、反応に困るその他全員には目もくれず僕らとの思い出を楽しそうに語る篤彦にはどこか好感が持てた。この時のスピーチは今もなお、飲み会の席では笑い話として僕らの中で語り継がれている。

 

取られたら取り返す

レンタカーで四国旅行に行った後、旅の締めくくりとして神戸でディナーに向かう時のことである。健勇は学生の頃から投資関係は一通り経験していて、この時も篤彦と一緒に何やら投資の話をしていた。哲誠と将一郎が疲れて寝ている中、後部座席で僕は小耳を立てて二人の会話を聞いていたが、どうも内容がおかしい。個人ブローカー経由で南米のコーヒー豆に投資したようだが、その人としばらく連絡が取れなくなっているとのことであった。

 

まさか健勇に限って詐欺師に騙されることはないだろうとそこまで不安には思っていなかったが、僕はそのブローカーの名前を聞き軽いノリでググってみた。ネット上でその人らしき写真が何枚か出てきた為二人に見せると、「コイツや!」と揃って口にした。詳しく調べてみると二人が連絡を取っていたのは被害者の会ができるほどに有名な詐欺師であった。その"まさか"であった。

 

結構な額を預けたと聞いていた為、そのことに気づいた時には二人は気が気じゃないだろうなと思ったが、二人が焦りの表情を見せたのはほんの一瞬であった。次の瞬間には二人はどうやってそのお金を取り返すかを考えており、むしろこの状況を楽しんでいたのである。いや、前向き。その後、健勇を中心に緻密な戦略を練り、結局今ではそのお金も全額ではないが一部戻ってきている。

 

カオスな状況でクラスに仲の良さをアピール 

熱海の温泉街に旅行に来ていた時の出来事である。五人で集まる時には僕と哲誠と将一郎の三人が進んでお酒を飲み、決まって僕が真っ先におかしくなる。この時も二軒目で入った温泉街でよく見かけるスナックで、僕は付いてくれた女性そっちのけでWANIMAを熱唱してハイになっていた。テンションそのままに次に向かった先はカラオケ。この辺りから僕の記憶は無い。

 

目を覚ますと僕は旅館の布団で横になっていた。こういう時に最後まで記憶があるのは健勇か篤彦である。二人にカラオケに行ってからの話を聞くと「えぐかった。」と一言。そのえぐさを物語るように、将一郎は部屋のトイレでパンツ一丁で布団に包まり眠っていた。何が起きたのか全く理解できなかったが、畳の上には片方のテンプルが折れた僕のメガネが転がっていた。ちなみにこれは将一郎が破壊したものである。

 

お酒を飲んで記憶をなくすと毎度後悔の念に襲われる。健勇がカラオケで撮った動画には、マイクを持って意味不明なことを叫びながらジョッキに入った酒と氷を掛け合う僕らの姿が収められていた。旅館に戻ってからの動画も酷く、奇声を上げながら僕が将一郎から逃げまわり哲誠に近づく姿や英語で謎のやり取りをする姿が映されていた。カオスな状況とはまさにこのような状況を指すのだと思う。

 

さらなる後悔は携帯の通知画面からやってきた。これらの動画がクラスLINEに投稿されていたのである。悪酔いしてクラスLINEも荒らしてしまったのかと深く反省したが、開けてびっくり。「みんな元気?武蔵のメンバーは楽しく過ごしてます。」と久しぶりの挨拶としては至ってまともなやり取りを僕はしていたのである。動画とのギャップがあまりに激しく皆困惑しただろうが、武蔵の仲の良さをクラスにアピールした瞬間であった。

 

 

ここで紹介した以外にもたくさんの思い出が僕らにはあり、今後も新しい思い出が生まれるだろう。僕を含め残された関東組二人も関西組を追って銀行を辞めることになるわけだが、各々がどのような道に進むのか、現在五人はどのような関係にあるのか等今後の展開から目が話せない。法人営業部編の続きに乞うご期待である。